千葉家庭裁判所 平成2年(家)122号 審判 1990年2月09日
主文
本件申立てをいずれも却下する。
理由
1 申立ての要旨
申立人は、「申立ての実情」として下記のとおり記載した各申立書によって事件本人の未成年者両名に対する各管理権を喪失させるとの審判を求めた。
記
(1) 申立人は未成年者両名の母であり、事件本人の妻である。
(2) 事件本人は、個人として屋根裏収納庫設置工事の請負業を営んでいたが、その経営に失敗して支払不能となり、平成元年1月31日千葉地方裁判所において破産宣告を受け(事件番号同裁判所昭和63年(フ)第115号)、この決定は同年3月3日確定した。
(3) 事件本人は、昭和63年11月1日以降行方不明になっているが、未成年者両名各所有の財産につき今後損害を与えることが予想される。
2 当裁判所の判断
(1) 民法835条は、「親権を行う父又は母が、管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは、家庭裁判所は、・・・・・・その管理権の喪失を宣告することができる。」と規定しているのであるから、管理権喪失宣告をするには、当該父又は母が現実に子の財産を危うくしたことを要するのであって、単に将来子の財産を危うくする心配があるというだけでは管理権の喪失宣告をすることはできないものと解するのが相当である。
(2) 本件においては、上記申立ての実情によれば、事件本人が現実に未成年者両名の各所有財産を危うくしたというわけではなく、将来危うくする心配があるというに止まること、しかも、本件各申立書の記載によれば、未成年者石川一明は満19歳の大学生、同石川友二は満14歳の中学生であるということを考えても、現在、両名の各所有とされていて、しかも行方不明であるという事件本人によって勝手に処分されてしまうおそれがあるような財産があるなどとも考えにくく、当裁判所平成元年(家)第138号、第139号推定相続人廃除申立事件の記録中の諸資料も併せ検討してみると、本件各申立ては、実際は、事件本人の父である石川真(明治43年8月15日生)が死亡した場合に備えて、予め遺産相続の手続きが全く事件本人の関与なしに行えるようにしておこうという目的でなされたものなのではないかとも疑われること(当裁判所としては、債権者の追求から逃れるため行方不明の状態でいる事件本人であっても、身内の者、中でも妻にまでその所在を隠しておかなければならない理由はないはずであるから、少なくとも妻即ち申立人にはある程度居所を明かにしているのではないかとも考えているものである。)、以上の諸点から、本件申立ては理由がないものと判断せざるを得ないものである。
(3) よって、主文のとおり審判する。